発達とは?
みなさんは無意識に「発達」という言葉を使っているかと思います。
「発達」と聞いて何となくイメージはできるけど、説明しようとすると難しいですよね。
「発達」とは一体何なのでしょうか?また、保育園や幼稚園などの園で、なぜ「発達」を考える必要があるのでしょうか?
発達の定義
保育の図書館では、「発達」の定義を以下のように位置づけたいと思います。
人の一生にわたるさまざまな変化のこと
内藤佳津雄・北村世都・鏡直子「発達と学習」第二版 弘文堂 2020,p4
発達の定義は人によって異なったり、もっと細かく言われることもあるかと思います(成長は身体の伸び、発達は機能の伸びという人もいます)。
しかし、ここでは簡単に一言で定義しました。
文部科学省(2009)も以下のように子どもの発達を定義しており、心身の垣根を越えた総合的な伸びを発達と捉えています。
子どもの発達は、子どもが自らの経験を基にして、周囲の環境に働きかけ、環境との相互作用を通じ、豊かな心情、意欲、態度を身につけ、新たな能力を獲得する過程であるが、身体的発達、情緒的発達、知的発達や社会性の発達などの子どもの成長における様々な側面は、相互に関連を有しながら総合的に発達する。
文部科学省「子どもの徳育の充実に向けた在り方について(報告)」2009
人は生きていれば何かしら変化がおきます。身長や体重もそうですし、考え方や知識も変化するでしょう。
その変化全てを「発達」と呼ぼう、というのが今回の定義になります。
発達と似た言葉として、「成長」や「成熟」、「学習」なんかもありますよね。
それらと「発達」の違いは何なのでしょうか?
成長・成熟・学習と発達
成長・成熟
成長とは、身長や体重の量的な増加を指します。
子どもは生まれた時は、身長50cm、体重3kgくらいの子が多いですが、1年もすると身長は70cm、体重9kgくらいまで増加します。
つまり、子どもは生まれて1年でだいたい、身長は1.5倍に、体重は3倍にまで成長する、と言えます。
そして、その成長のうち、青年期における第二次性徴の、生殖機能が完成されていくことを成熟と呼びます。
学習
学習とは、経験によって行動が変化することを指します。
私たちは、日々学習しています。
勉強もそうですし、自転車を乗るために練習したりすることも学習です。
自転車を練習する時に、上手く乗れずに転ぶこともあるでしょう。「失敗は成功のもと」と言いますが、失敗=転ぶという経験を通して、自転車の乗り方を学習していくのです。
そして学習は、比較的永続的な行動の変化を指します。
発達
発達とは、最初に述べたとおり、「人の一生にわたるさまざまな変化のこと」と言います。
成長・成熟は身体的な変化、学習は経験による行動の変化です。
つまり、発達とは、成長・成熟と学習によって支えられていると言えるでしょう。
発達は何のよって促されるのか
遺伝と環境
先程、発達とは、成長・成熟と学習によって支えられているとまとめました。
振り返ると、成長・成熟と学習は以下の通りです。
- 成長・成熟は身体的な発達
- 学習は経験による発達
つまり、発達とは、遺伝(成長・成熟)と環境(学習)の2つによって支えられているのです。
身長などはある程度、遺伝によって決められているというのはイメージできるかと思います。私たちの身長が日本からアメリカに移り住んだだけで変化することはありません。
反対に環境を変えれば、発達するものもあります。例えば、1人で自転車を乗れるように頑張ろうとするよりも、自転車の乗り方を教えるプロが身近な環境にいた方が、早く乗りこなせるようになるでしょう。
身長が伸びることも、自転車に乗れるようになることも、どちらも発達ですが、その背景には遺伝によるものか、環境によるものかという違いがあります。
遺伝か環境か
しかし、ここで疑問を持つ人もいるかもしれません。
例えば、身長は確かに遺伝が関係ありそうだけれど、栄養たくさん取れば=環境を変えれば、もっと伸びるよ
つまり、身長は遺伝によって変化するだけでなく、環境によっても影響を受けるんじゃないか、ということです。
確かにその通りです。自転車だって、環境に関わらず、1人でヒョイと乗れてしまう人だっています。
発達は遺伝と環境によって支えられている、ということは間違いなさそうです。
しかし、重要なのは、遺伝だけで説明できる発達もなければ、環境だけで説明できる発達もないということです。
発達は遺伝と環境のどちらの影響も受けている
私たちは、遺伝と環境のどちらかだけの影響を受けて発達しているわけではありません。
もちろん、どちらが強く、大きく影響しているのかは、発達の領域によって違いはあります。
しかし、基本的には遺伝と環境は密接に関わりながら、私たちの発達を支えているのです。
発達を考えることの意義
そもそもなぜ私たちは「発達」について考える必要があるのでしょうか?
ひとつの答えとして、発達は保育を行う上での指針となるからだと考えられます。
発達にはどんな順番で発達するのか、どの時期にどんな特徴が現れるのか、という発達の方向性があります。
その、発達の方向性を知ることによって、園での子どもたちにどのように接するのか、というヒントになるのです。
発達の方向性
ここでの発達の方向性とは、保育を行う上での指針という意味を含むものとします。
その意味で、発達の方向性は、どんな順番で発達するのかという発達の順序とどの時期にどんな特徴が現れるのかという発達の段階について確認しましょう。
発達の順序
発達には順序があります。
例えば、赤ちゃんはハイハイができる前に歩くことはできませんし、歩く前に走ることはできません。
さっきまでハイハイしていたのに、歩くことをとばして急に走る子どもを見たことはありませんよね。
この発達の順序を知ることによって、目の前の子どもがどのように発達していくのか、見通しを持つことができます。
そのような見通しを持つことによって、子どもに無理なことを要求しないで保育をすることができます。
発達の段階
発達には段階もあります。
どんな特徴がどの時期にあるのかということです。
個人差はあるものの、どのような発達が、いつ起こるのかという大まかな特徴は大きく人によって外れることはありません。
例えば、赤ちゃんの多くは0歳半ばから1歳の間にハイハイをするようになりますし、2歳になるとイヤイヤ期というものが訪れます。
そのような発達の段階を理解することによって、「この子はイヤイヤ期に入っているだけであって私を困らせたいんじゃないんだ」などと、子どもの発達を踏まえて支えることができます。
以上、発達の順序や段階、また領域については別の記事で、もっと掘り下げる予定です。
発達の理解が保育につながる
発達の方向性である、その順序や段階を理解することによって、
- 子どもがその時期にできることやつまづきのポイントを見分ける
- 子どもがこれからできることのためにどんな働きかけをする必要があるのかを考える
といった保育の構想の基盤となります。
発達の方向性の理解だけでは保育を考えることはできません。そして、個人差など1人1人に注目することも忘れてはいけません。
しかし、発達の理解なしに保育を考えることもできないのです。
発達の理解が保育の構想の基盤となる
最後に
この記事では、
- 発達とは何か
- 発達をなぜ理解する必要があるのか
ということについて、保育の視点から整理してきました。
発達とは、人の一生にわたるさまざまな変化のことです。
そして、その発達を理解することにより、どんな保育が良いのかという構想を支える基盤となります。
発達を理解することで、保育に関わる皆さんの助けとなることを願っています。
今回の記事では触れきれなかった
- 発達の細かな段階(乳幼児期、学童期、青年期など)
- 発達の領域(社会性、身体機能、言語、認知など)
については、また別の記事で整理する予定なので、お待ちください。
参考資料
- 内藤佳津雄・北村世都・鏡直子「発達と学習」第二版 弘文堂 2020
- 文部科学省「子どもの徳育の充実に向けた在り方について(報告)」2009