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保育園や幼稚園の保育とは?何をすれば良いの?その定義や歴史と意義

「保育」とは何か?

「保育」の定義

保育の定義は人によって様々ですが、保育の図書館では以下の定義を採用したいと思います。

乳幼児期を中心に、園で行う集団の場の営み

秋田喜代美「あらゆる学問は保育につながる 発達保育実践政策学の挑戦」東京大学出版会,2016,p5

他にも、
「保育は保育所が行うもので、幼稚園で行うものは幼児教育だ」
「乳幼児や保育所での営みだけでなく、児童福祉法を踏まえて、18歳までの様々な営みが保育なんだ」

という意見もあるかと思います。

しかし、保育という語の定義は時代よって変化するため、「乳幼児期を中心に、園で行う集団の場の営み」という定義が適切であると考えます。

「保育」という語の歴史

湯川嘉津美「保育学講座1 保育学とは」日本保育学会編, 第2章 保育という語の成立と展開, 東京大学出版会, 2016 を参考に「保育」という語の歴史を概観します。

まず「保育」という語が使用されたのは、1876(明治9)年です。
この年の11月に東京女子師範大学附属幼稚園の創設に伴って、「幼稚園における教育」を表すものとして「保育」という言葉が使用されるようになりました。

その後の明治・大正時代には幼稚園教諭が行う実践だけでなく、託児所・保育所においても「保育」という語が用いられるようになりました。
※ただし、この時の「保育」は幼稚園では「就学前教育」を、保育所では「社会的養護」を主とするように、その内容は園や対象とする子どもによって異なっていました。

その後、「保育要領」、「幼稚園教育要領」、「児童福祉施設最低基準」、「保育指針」と様々なところで「保育」の語が使用され、またその中身が検討されてきました。

そして、2012年8月に認定こども園法が一部改定され、「幼保連携型認定こども園」の設置が新たに規定されました。その際に、「教育」と「保育」とが以下のように区別されて使用されました。

第二条第八項
この法律において「教育」とは、教育基本法(平成十八年法律第百二十号)第六条第一項に規定する法律に定める学校(第九条において単に「学校」という。)において行われる教育をいう。

第二条第九項
この法律において「保育」とは、児童福祉法第六条の三第七項に規定する保育をいう。

平成十八年法律第七十七号 就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律

明治期の幼稚園ではじめて「保育」という言葉が使われ、時代の流れとともに変化し、現在の認定こども園法では「教育」と「保育」を区別して使用しているのです。

このように「保育」という言葉は時代によって変化し、今後も変わる可能性があるので、本サイトでは「乳幼児期を中心に、園で行う集団の場の営み」という定義で「保育」を捉えていきます。

なぜ保育が必要なのか?

乳幼児への投資の効果

乳幼児は心身ともに劇的に変化する時期

別の記事で詳しく解説しますが、乳幼児期は体も大きくなるし、感情が豊かになったり、言葉を聞いたり話せるようになったりと、体も心も変化する時期です。

そしてそれは、栄養や子どもに反応するといった保育によって、サポートされることは言うまでもありません。

乳幼児への投資と社会政策の効果

では、乳幼児への働きかけが社会に変化をもたらすのでしょうか?その問いの答えとしてアメリカの研究(ヘックマン,2015)などでは、「あった」と結論づけています。

この研究では、学校に通い始める前の恵まれない子どもたちを対象に、特定の教育プログラムを受けるグループと受けないグループとを設けて、20年後に調査し比較しました。

その結果として、教育プログラムを受けた子どもたちの方が、後の犯罪率の低下社会保障をもらう割合の減少につながったというのです。

乳幼児への働きかけは、彼らの心身将来の犯罪率・社会保障受給率にまで影響する可能性があります。

このような意味で乳幼児のサポートをすること、すなわち投資することは重要な意味を持つと言えます。

幼児教育が培う社会情動的スキル

幼児期の教育プログラムのいくつかの研究結果

幼児期の教育プログラム研究はいくつかあり、その研究結果を集めて見つめ直す、という分析方法があります。
その分析結果によると、幼児期の教育プログラムを行うことにより、忍耐力や思いやり、自尊心といった社会情動的スキルに効果があるというのです。

社会情動的スキルとは?

社会情動的スキルとは、非認知能力のことを指します。認知能力ではないもの、とは一体何なのでしょうか?
OECD(2015)は社会情動的スキルを以下のように紹介しています。

社会情動的スキルは、「(a)一貫した思考・感情・行動のパターンに発言し、(b)学校教育またはインフォーマルな学習によって発達させることができ、(c)個人の一生を通じて社会・経済的成果に重要な影響を与えるような個人の能力」と定義することができる。
これらのスキルは、目標を達成する力(例:忍耐力、意欲、自己制御、自己効力感)、他者と協働する力(例:社会的スキル、協調性、信頼、共感)、そして情動を制御する力(例:自尊心、自身、内在化・外在化問題行動のリスクの低さ)を含んでいる。

OECD「家庭、学校、地域社会における社会情動的スキルの育成 国際的エビデンスのまとめと日本の教育実践・研究に対する示唆」ベネッセ教育総合研究所(訳),2015, p7

つまり社会情動的スキルとは、忍耐力自己効力感協調性自尊心などを含んだスキルというわけです。

先程の、研究の集めて見つめ直した時、幼児期教育プログラムが社会情動的スキルに効果があるとありました。

つまり、言い換えれば、小学校に入学する前の教育プログラムが忍耐力や自己効力感、協調性や自尊心などに効果があったということです。

忍耐力や協調性などは子どもの時はもちろん、大人になってから、社会に出てから求められる能力ですよね。幼児期での教育がそんな大事な能力に結びつくとは驚きの結果です。

幼児教育が忍耐力や協調性、自尊心などを含む、社会情動的スキルに効果があるという分析結果も。

日本における保育の質の向上とは?

これまで、保育の影響を通じて、その重要性を整理してきました。
それでは、日本のおける保育の質を上げるためにはどうすれば良いでしょうか。

保育の質を「保育者」という視点、「保育カリキュラム」という視点、この2つの軸を基盤に整理します。

保育者という視点

保育者という視点で保育の質を捉えるとすると、欠かせないのは「保育者の専門性」です。保育者の専門性が高まれば保育の質が高まると言えます。

保育者の専門性のひとつは、その専門知識です。乳幼児の子どもは大人のようにコミュニケーションが取れるわけではないので、子どもたちの意思を汲み取ったり、発達の理論に基づいてサポートしたりします。そのための専門知識は欠かせません。

保育者の専門性のもうひとつは、保護者への対応です。

乳幼児は家庭と園のつながりや連続性を大切にします。例えば、家ではお昼にミルクを飲むけど、園では3時過ぎにミルクを飲むといった家庭と園での生活リズムのズレは少ない方が良いです。

他にも

  • 保育者自身が園を通じて親として育つ
  • 家庭、園、地域というネットワークが広がることで子どもを広く支える

などは、保護者とのコミュニケーションを通じて形になっていきます。

保育者の専門性である知識保護者への対応こそが「保育の質」につながる。

保育カリキュラムという視点

日本は遊びと生活を重視したカリキュラムであると言えます。

保育のカリキュラムの基盤には、健康や人間関係、環境、言葉、表現といった乳幼児期に望まれる生活経験が組み込まれているのです。

保育のカリキュラムの基盤には遊び生活がある。

保育の課題と今後

これまで、

  • 保育者という視点
  • 保育カリキュラムという視点

の2つの視点から保育の質を整理してきました。

しかし、その2つの視点どちらにおいても十分とは言えない現状です。

保育者の専門性の課題

日本が投じる公的資金額はその他の先進諸国に比べて極めて低い水準であると言われています。

他にも保育士の研修の権利が保障されていなかったり、保育所の経営資格には教諭や保育士の資格の義務付けがなかったりと、保育の専門性が保たれる十分な状況にありません。

言い換えれば、保育がないがしろにされているとも言えそうです。

保育カリキュラムの課題

園は一定以上の基準が設けられている一方で、多様であるという側面もあります。

カリキュラムが保育の質の評価として十分に検討されていないこともあるのです。

例えば、スポーツや音楽に特化したり、自由遊びを推奨したりといった方針の違いもあります。それ以外にビル内園の戸外での経験不足や園庭がなかったりと施設そのものによって制限される園もあります。

全ての園で十分なカリキュラムが検討されているとは言い難いのです。

まとめ

この記事では

  • 保育の言葉の定義
  • 保育の意義
  • 保育の質の向上について

をメインに整理してきました。

保育の必要性が見出される一方で、保育の質を向上するには様々な課題があることも整理されました。

保育とは何をすれば良いのか?

この問いへの完全なる答えは難しいかもしれません。しかし、

保育とは何か?

という問いには、保育という言葉の定義と保育の質の向上の基盤となる2つの視点から導き出すことができます。

保育の図書館では、そんな保育に関わる全ての人に理論という枠組みから、少しでも支えになるよう情報を発信したいと思います。

参考資料

  • 秋田喜代美「あらゆる学問は保育につながる 発達保育実践政策学の挑戦」東京大学出版会,2016,p5
  • OECD「家庭、学校、地域社会における社会情動的スキルの育成 国際的エビデンスのまとめと日本の教育実践・研究に対する示唆」ベネッセ教育総合研究所(訳),2015, p7
  • 平成十八年法律第七十七号 就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律
  • ヘックマン,J,J「幼児教育の経済学」古草秀子(訳),東京経済新報社,2015
  • 湯川嘉津美「保育学講座1 保育学とは」日本保育学会編, 第2章 保育という語の成立と展開, 東京大学出版会, 2016